税理士も間違える?特区民泊と民泊の違いとは
今年6月15日に住宅宿泊事業法、いわゆる民泊新法が施行されました。
施行に前後して、様々な媒体で特集が組まれていたことや、利用することはあっても実際の運営に携わっていることの少なさから、一般的には「民泊=民泊新法の元で運営されるもの」という認識が広まっていると言えます。
しかしながら特区民泊と民泊新法に則った一般の民泊は全く別種のものになります。 本ページでは、両者の違いについて解説致します。
民泊が増えた背景として、訪日外国人の増加や宿泊施設不足といったことが挙げられます。
表1.特区民泊と民泊の法律上の違い
特区民泊 | 民泊 | |
名称 |
国家戦略特別区域の |
住宅宿泊事業 |
管轄省庁 |
内閣府(厚生労働省) |
国土交通省・観光庁 |
許認可 | 自治体の認定を受ける必要がある | 自治体に届出を出す必要がある |
法律 | 旅館業法の特例 | 住宅宿泊事業法 |
エリア | 以下に限定される 東京都大田区、千葉県千葉市 新潟県新潟市、大阪府大阪市 大阪府(一部除く)、福岡県北九州市 |
限定されない |
特区民泊は、正しくは国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業といい、その名の通り国家戦略特区の限られたエリアでしか行うことが出来ません。
また、一般の民泊が要件を満たしたのち、自治体に届出を出せば営業を開始できるのに対し、特区民泊は自治体の認定を受けなければいけません。*1
2019年9月現在、5つの都府県で認可が下りていますが、表2にあるように、その90%以上が大阪市に集中しており、次点の東京都大田区と併せると約99%がこの2つのエリアに集中しています。
表2.特区民泊と民泊の件数((2019年7月時点)
特区民泊 | 民泊 | |
件数 | 9,700件 *2 うち9,000件が大阪市に集中している 次点は大田区で600件 |
17,111件 うち約5,800件が東京の23区内 大阪市を含む大阪府が約2,700件 札幌市を含む北海道が約2,400件 |
一方で、一般の民泊はその3分の1が東京に集中するも、大阪と北海道を加えた上位3都府県で全体の3分の2にしかならず、偏在してはいるものの全国にあることが分かります。(引用:国交省の民泊の届出の推移)
ここまではあくまで一般論としての特区民泊と一般の民泊の違いですが、実際に民泊事業を始めた、もしくはこれから始めたいといった方の目線で見ると、年間の利用上限や家屋の制限といった運営する上での違い、そして無事収益が出た後の税務上の取り扱いの違いががもっとも関心を引くところかもしれません。
表3.事業としての特区民泊と民泊の違い
特区民泊 | 民泊 | |
利用上限 | 利用日数の年間制限なし ただし1回の利用が2泊3日以上 |
年間180日が利用が上限 |
対象家屋 | 民泊に利用する目的で建設したアパートやマンションでも営業可能 | 居住している家屋 入居者の募集が行われている家屋 随時居住されている家屋 (別荘・セカンドハウス・転勤等で利用していない自宅・相続によって所有している空き家) |
不在時の管理業者への委託 | 必要なし | 住宅宿泊管理事業者への委託が必要 (住宅宿泊事業者自ら行うことも可能) |
運営に関して | 規定なし | 以下の3者が必要となる ・住宅宿泊事業者(民泊ホスト・オーナー) ・住宅宿泊管理事業者(管理業務を行う) ・住宅宿泊仲介業者(紹介・仲介を行う) |
税務上の取り扱い | 個人・法人いずれの場合も事業所得となる | 個人の場合は原則雑所得となる 不動産事業者が入居者が決まるまで民泊にしている場合は不動産所得に、民泊によって生計を立てているのが明らかな場合は事業所得になる。 |
経費計上の範囲 | 全額を事業の経費として計上する | 個人の場合は、家賃や、光熱費といった経費は自身が生活に供している部分と民泊として提供している部分とを按分し、仲介業者への手数料や宿泊者用の日用品などは全額を雑所得の損金として計上する |
一般の民泊が年間180日という上限が設定されているのに対し、特区民泊は1回の利用が最低2泊3日以上であるという条件こそあるものの、年間の利用日数に上限がありません。立地や価格といった他の要件が全く同じであった場合、稼働日数の上限のない特区民泊が圧倒的に優位であると言えます。
対象家屋に関しても、特区民泊の方が優位であると言えます。一般の民泊はあくまで「住宅への宿泊」であるために居住の必要性があります。そのため、新たに民泊事業を始めるにあたりアパートを建てる、あるいはマンションを分譲購入して民泊にするといったことも出来ません。
実際に民泊の事業を行う際に、特区民泊は規制はありませんが、投資として行うのであれば自身で行うよりも一般の民泊と同様に管理会社等への委託が現実的と言えます。
また、個人事業主がそれぞれの民泊事業を行なった際の税務上の取り扱いは、特区民泊は事業所得として計上できるのに対し、一般の民泊は雑所得として計上します。そのため、事業所得であれば民泊の経費を他の所得と損益通算することで利益の圧縮と節税が出来るのに対し、雑所得は経費がマイナスの場合は0円として取り扱うため損益通算をすることが出来ません。
どちらのタイプの民泊も、あくまで主目的は民泊事業ですが、特区民泊の場合は節税といった副次的な効果を生むことも期待出来ます。
まとめ
一般の民泊はその開業の手軽さから、民泊新法以降爆発的に増えています。もし、民泊事業に興味があり、時間に余裕もあり、事業に適した家屋を保有しているのであれば、民泊新法に従って自身で民泊を初めて見るのもいいかもしれません。
一方で、民泊をあくまで業者を介した投資として捉えるのであれば、収益性が見込める特区民泊で始める方が期待値が高いと言えます。
認定は事業者に対する、公的機関によるお墨付きです。特区民泊の場合、事業者の申請に対し自治体側が要件を満たしていることを確認したのち、認定を行います。
一方で、届出は公的機関に連絡するだけです。民泊の場合、事業者が民泊事業を始めたことを自治体に知らせるという連絡だけで、特に届出に不備がなければ自治体側から連絡はありません。
マンションタイプのものは1棟を1件として算出しています。